風に運ばれる祈り|『E Lono E』に見るロノ神への賛歌
風に乗って届く、古の祈り
ハワイの空を渡る風には、古代からの祈りが宿っている――。
そんな想いを今に伝える曲が『E Lono E(エ・ロノ・エ)』です。
このメレは、雨と豊穣、そして平和を司る神ロノ(Lono)に捧げられた伝統的なチャント。
フラの世界でも、自然への感謝と祈りを表す代表的な一曲として踊り継がれています。
“E Lono E”――その言葉自体が「ロノよ、我らの祈りを聞き届けたまえ」という呼びかけ。
ハワイの大地に雨をもたらし、作物を育み、命の循環をつなぐ風の神への賛歌です。
ロノ神とは ― 平和と実りの象徴
ロノは、ハワイ神話の四大神のひとり。
カネ(生命の神)、クー(戦いと労働の神)、カナロア(海の神)と並び、
「雨・雲・実り」を司る存在として人々に敬われてきました。
ロノの季節とされるのが、秋から冬にかけてのマカヒキ(Makahiki)。
この期間は戦いが禁じられ、人々は働きを休み、自然と共に収穫を祝う平和の時期でした。
『E Lono E』は、そんなマカヒキの儀式の中で歌われた神聖なチャントのひとつです。
風に揺れるタロ畑、波間にきらめく光、そして雨上がりの虹。
それらすべてが、ロノの恵みの証。
人々は自然と調和しながら、日々の暮らしの中に“祈り”を見いだしていました。
『E Lono E』に込められた意味
このメレは、古いハワイ語で構成されており、
一見すると単純な繰り返しのように聴こえます。
しかし、その一つひとつの言葉の裏には、深い精神性が流れています。
“E Lono ē, E Lono ē…”
―― ロノよ、ロノよ、我らの声を聞き届けたまえ。
呼びかけのリズムは、海のうねりや風の呼吸を思わせます。
フラでは、両手を天へ掲げ、風や雨の流れを描くように動かします。
それはまるで、祈りそのものが大地と空をつなぐ動作のようです。
踊り手の心が澄んでいればいるほど、フラは“祈りの通路”になります。
『E Lono E』は、音楽というよりも、神と対話する時間。
観る人にとっても、どこか懐かしく、静かな力を感じさせてくれる曲です。
フラで表現する“祈りの形”
この曲を踊るとき、最も大切なのは「無心」です。
激しい動きはなく、静かに、ゆっくりとしたステップで進みます。
風を感じるように腕を動かし、天からの恵みを胸に受けるように踊る――
それが『E Lono E』の本質です。
表情は柔らかく、目線は遠くへ。
そのまなざしの先には、ロノ神が見守る空があると信じて踊りましょう。
それは技術ではなく、信頼と感謝の心が表現の源になる時間です。
現代に生きる“ロノの心”
『E Lono E』のメッセージは、今の私たちにも深く響きます。
便利さやスピードを求める日常の中で、
自然の声に耳を傾け、雨や風を“贈り物”として感じる――
そんな心の静けさを取り戻すことが、このメレの教えなのです。
ハワイの人々にとって、祈りとは“与えられたものへの感謝”。
それは宗教でも儀式でもなく、生き方そのもの。
『E Lono E』を踊ることは、自然と人との関係をもう一度見つめ直すことに他なりません。
おわりに|風と共に生きるということ
ロノの風は、今もハワイの島々を静かに吹き抜けています。
その風に乗って、祈りと感謝の言葉が遠くまで届くように――。
『E Lono E』を踊る時間は、自分自身を清め、
自然とひとつになる神聖なひととき。
手の動きが風を生み、ステップが大地を癒す。
フラはまさに、祈りそのものなのです。
どうか今日も、あなたのフラが“ロノの風”に乗って、
世界のどこかへ穏やかな平和を運んでいきますように。