「フラダンスの神様」と呼ばれた女性たち|伝説のクムたちの物語
「フラダンスの神様」と呼ばれた女性たち
フラを愛する人の中には、一度は耳にしたことのある名前があるかもしれません。
「アンクル・ジョージ・ナオペ」「マリア・カウマカ・スティルマン」そして「イオラニ・ルアヒネ」──。
彼女たちは、ハワイのフラを現代まで受け継ぎ、育み、世界に伝えてきた伝説のクム・フラ。
「フラダンスの神様」とまで称えられるその存在は、ただ振付を教える人ではなく、ハワイの魂そのものを継承する存在でした。
クム・フラとは“文化の守人”
「Kumu Hula(クム・フラ)」とは、フラの指導者、師匠のこと。
ハワイの伝統においてクムは単なるダンスの先生ではありません。
フラの背景にある神話、言語、チャンティング、自然観……
それらすべてを深く理解し、次の世代に“正しい形で伝えていく責任”を持った存在なのです。
イオラニ・ルアヒネ|精霊と語り合う舞
フラ界の伝説として語り継がれるイオラニ・ルアヒネ(ʻIolani Luahine)。
彼女のフラは、踊りというよりも“儀式”でした。
神聖な場で、まるで自然と一体となるように踊る姿に、鳥が集まり、風が止まったとさえ語られるほど。
多くの人が彼女を「フラの精霊」と呼び、目の前で踊るだけで空気が変わる──そんな圧倒的な存在感があったと伝えられています。
マリア・カウマカ・スティルマン|言葉を守り抜いた女性
フラの振付だけでなく、ハワイ語と詩の世界にも造詣が深かったマリア・カウマカ・スティルマン。
フラの動きと歌詞の関係性、古典的なメレの保存、そして記録としての重要性を誰よりも理解していました。
当時、ハワイ語の使用が制限されていた時代に、文化と言葉を絶やさぬように努力を続けた彼女の功績は計り知れません。
エディス・マカラナイ・カナカオレ|ハワイ島の母
エディス・カナカオレは、ハワイ島出身のクムで、自然との対話を大切にするスタイルのフラを教えていました。
彼女の教えの根本は「Aloha ʻĀina(アロハ・アイナ)=土地を愛する心」。
フラを通して、大地の呼吸や波のリズムを感じ取る方法を伝えていました。
彼女の名を冠した「エディス・カナカオレ・スタジアム」は、現在もフラの祭典「メリーモナークフェスティバル」の舞台となっており、彼女の魂が今も息づいています。
その教えは、今も続いている
彼女たちはもうこの世にはいません。
しかし、フラのクラスで静かに始まるチャンティング、自然に手を向ける所作、歌詞の一言一句にこめる意味──
それらすべてに彼女たちの教えが生き続けているのです。
現代のクムたち、そして私たち一人ひとりが、そのレガシーを次へとつなぐ役目を担っているのかもしれません。
結びに──フラは、女性たちの祈りの歴史
「フラダンスの神様」と呼ばれた女性たちの生き方は、華やかさとは裏腹に、厳しい修練と深い精神性に裏打ちされたものでした。
彼女たちの物語に触れることで、私たちが今踊っている一曲一曲が、どれほど尊いものなのかを再認識できるはずです。
踊るとき、歌うとき、目を閉じたとき──
その背後に、静かに見守ってくれる“フラの神様たち”の姿を、どうか感じてみてください。